副院長ブログ(免疫システムを知る⑳胸腺でのT細胞の選別・骨髄でのB細胞の選別)
⑲では成熟したB細胞では抗体遺伝子はまとまりのある配列に可変部の遺伝子が組み替えられ、そのDNAの遺伝子情報を必要な部分だけRNAが写し取り、核の外へ飛び出してタンパク質が合成され、免疫グロブリンの可変部に組み込まれ、新しい抗体が作られるという仕組みで、T細胞でも同様の仕組みがある、という学習をしました。
遺伝子の再構成によって病原体以外の異物や自己の成分を認識する受容体をもつB細胞やT細胞も生じますが、
なぜ自己を攻撃する細胞が増えすぎないのか、について⑯とは少し違ったアプローチの学習をします。
B細胞抗原認識受容体やT細胞抗原認識受容体が完全にランダムに作られるため、自己に反応するものが出てくるはず。
T細胞は、T細胞抗原認識受容体を作る前段階までは骨髄で成長して、胸腺に移動します。
胸腺に移動した前駆T細胞は増殖して数を増やす途中で遺伝子再構成を起こして多様なT細胞抗原認識受容体を持つようになります。この段階ではCD4陽性のヘルパーT細胞とCD8陽性のキラーT細胞の区別はありません。
胸腺の上皮細胞表面にはMHCクラスⅠ分子に自己ペプチドが乗ったものやMHCクラスII分子に自己ペプチドが乗ったものがたくさん提示されています。
T細胞は胸腺上皮細胞に提示された「MHC+自己ペプチド」とお見合いを繰り返して自分のT細胞抗原認識受容体がどのように結合するかを探ります。
その結果、①「MHC+自己ペプチド」と強く結合する、②「MHC+自己ペプチド」と適度に結合する、③「MHC+自己ペプチド」と全く結合しない、の三つに分かれます。
①では自己に反応してしまうのでアポトーシスのスイッチが入って取り除かれます。(負の選択)
③はMHC分子に抗原由来のペプチドが乗ったものに対しても結合できない可能性が高く役に立ちそうもないのでアポトーシスのスイッチが入り、取り除かれます。(無視による死)
②の、適度に結合したものだけが生き残ります。(正の選択)
この選別により、遺伝子再構成を経て誕生したT細胞の90%以上が取り除かれ、数%が生き残ると言われています。
正の選択で増殖した胸腺のT細胞表面にはCD4分子とCD8分子両方が出ていますが「MHCクラスⅠ+自己ペプチド」とのお見合いで適度に結合したT細胞では表面のCD4分子が消えてCD8分子が残り、CD8から刺激が入ってCD8陽性T細胞(キラーT細胞)になります。「MHCクラスII+自己ペプチド」に適度に結合したT細胞表面にはCD8分子が消えてCD4分子が残り、CD4から刺激が入ってCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)になります。
B細胞は胸腺には移動せず骨髄で成熟し、①の負の選択しか起きません。
B細胞抗原認識受容体は抗原に直接結合するので、周囲の細胞に出ている分子や体液中を流れる分子などのあらゆるものを抗原分子と考え、くっつくかどうかをテストします。
自己抗原に強く結合したら①の負の選択にかかり、アポトーシスのスイッチが入りますが、その選択にかからなかったものは全て生き残ります。
B細胞では稀に「ほどほどに強く」結合するものは遺伝子再構成のやり直しを許されるらしいとのことです。
活性化したB細胞に突然変異を起こして抗原に対する抗体の結合力を高める親和性成熟で、突然変異を起こす場所が抗体の可変部です。遺伝子再構成で作られた抗体は抗原に対する結合力が強くないため、親和性成熟を起こして結合力を高めるという仕組みです。
骨髄で強い結合は負の選択を受けるのに対して、リンパ節での親和性成熟では「強く結合」が生き残ります。なぜこのように逆の事象が起きるのかは解明されていません。
選別されても、自己反応性のT細胞・B細胞が完全に消失してしまうことはなく、10%程度は生き残ると言われています。
それらを制御する仕組みを⑯(制御性T細胞の話)で学習したのでした。
そしていよいよ免疫記憶の学習が始まります。
参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博
スクエア最新図説生物 第一学習社