副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む⑨四 インスリンを理解するために その7 蛋白とミネラル)
「インシュリン物語」の続きを読みます。
エネルギー源として、蛋白は正常の代謝には糖や脂質ほどに重要ではないが、それが適当な量摂取されることは生命の維持や体組織の成長と修復機転にとって不可欠である。
糖や脂肪と比べると蛋白は非常に大きく複雑な分子構造をもっていて、身体はアミノ酸というはるかに小さな単位からこれを作り上げる。
24種類のアミノ酸のうちの一部だけが人の身体の中で作られ、その他はすでに蛋白となっているものから摂取せねばならない。
その意味で、身体が作れないアミノ酸の一つ以上が足りない蛋白を「不完全蛋白質」といい、身体が作れないアミノ酸を全部含んでいる蛋白を「完全蛋白質」という。
完全蛋白質に富む食物としては、脂肪のない肉・鶏肉・スキムミルクとその製品・チーズ・卵黄および魚がある。
腸から吸収される前に蛋白食物は消化液によってアミノ酸に分解される。
コントロールされていなかったり、コントロールの不十分な糖尿病状態では身体自身の蛋白質がたくさん壊れて血糖になったり他の物質になったりして、(インシュリンが発見される前の重症糖尿病状態にひどく特徴的であった)体組織の消耗を招く。
幸いにして少量のインシュリン授与によってこの危険な現象は阻止され、組織蛋白は食物蛋白の助けにより再構成される。
インシュリンの全身的作用は身体の燃料の三つの基本型だけに終わらない。
もし人間や他の哺乳類がたとえば膵臓摘出後のようにインシュリン源を失うと、燐やカリウムのような重要な無機物質は、グルコースやケトン体と共に尿に排泄される。
ビタミンのような栄養学的に重要な微量物質もまた失われる。
もしインシュリンが与えられると、これらの組織消耗過程はすべて阻止され、組織中の微量物質の量も食物中のそれによって回復される。
体内でエネルギーを作り出しはしないこれらの微量物質の機能はまだ完全にはわかっていないが、身体がカロリーを担っている食物を使用するのに必要な複雑な生化学的反応と関連をもっていることが多い。
たとえば燐とビタミンB複合体にはこれらの反応の大部分に関係していることがわかっている。
要約すると、インシュリンは身体全体の中で糖代謝だけでなく、エネルギーを作り出す三つの型の食物のエネルギー代謝と身体の無機物およびビタミンの代謝を支配している、といえる。
栄養学は食べる食物の種類と量とその運命について、またその体動との関係についての問題を扱う学問である。
非糖尿病者は自分の栄養についてかなり超然としておれるし、身体の中で起こっていることを意識はしないだろう。(これは危険なことです)
糖尿病を持つ者は食事の量・組成・時間の配分・そして体動の種類や量などについてプログラムを作っておかなくてはならない。
これらは、もし、よい栄養が維持されているならばインシュリン注射の量と、種類と時間によって決まるのである。
巧く治療されている重症糖尿病者というのはジョスリンの言う「三頭の馬」のチームを調整するエキスパートになったひとのことである。
インシュリンと食事と運動がそれである。
(現在では薬物療法、食事療法、運動療法という三つの療法が3本柱と位置付けられますが、薬物療法は食物療法と運動療法を行なったうえに補助的に開始されるべきものあること、この著書の当時はインシュリンだけだった薬物は今ではインシュリンとそれ以外の注射や多種の内服薬があることをを付け加えておきます。)
(お話はまだまだ。新年に続きます。よいお年をお迎えください。)
参考書:インシュリン物語 G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版