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副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む⑬四 インスリンを理解するために その11 インシュリンと他のホルモン)

[2024.04.24]

《インシュリン物語の続きです、14日より10日遅れました》

インシュリンだけが糖や脂肪や蛋白質の代謝に影響を与えるホルモンではない。

それにインシュリンの作用も、下垂体や副腎皮質から分泌されるホルモンのような他のホルモンによって著しく影響される。

下垂体は脳の基底部にあるサクランボ大の内分泌腺であり、副腎はこれより少し大きくて、両側の腎臓の上に帽子のようにのっている内分泌腺である。

(中略:いろいろな研究の説明)

インシュリンに拮抗する下垂体の力は、下垂体前葉エキスの「長期」投与がインシュリン分泌細胞を破壊するものであることが実験で示されていて、続発する恒久的糖尿病状態は膵剔後の糖尿病に酷似している。

下垂体は数種の活性物質を分泌しているが、特異的に糖代謝、そして間接にはランゲルハンス島の細胞に、作用する物質があり、それば成長ホルモンであることがわかっている。

下垂体成長ホルモンは体細胞刺激物質(ソマトトロフィン)ともいわれ、インシュリンとともに普通は幼若動物の成長を調節しているが、成人の代謝過程にも重要な作用をもっている。

精製した牛の成長ホルモンを用いれば、ヤングの粗製下垂体エキスに匹敵する糖尿病惹起効果がある。

副腎もまた、糖や脂肪や蛋白質の代謝に作用する。

腎臓の上極にベレー帽のようにのっているこの副腎には、2つの異なる組織がある。

副腎の外層には副腎皮質が、内部には副腎髄質がある。

皮質も髄質も栄養素、特に、糖質の代謝に影響を与えるホルモンを分泌しているが、髄質ホルモンと皮質ホルモンとは化学構造も作用も甚だしく異なっている。

髄質ホルモンたるアドレナリン(エピネフリンともいう)はホルモンとしては異常に小さい、簡単な分子である。

その作用は血糖レベルへの作用の他にも循環・呼吸・消化系に広く及んでいる。

アドレナリンを人間や動物に注射すると血糖濃度が増加するが、長い間は続かない。

この血糖上昇反応の程度あるいは反応の有無さえも肝臓の中にグリコーゲンとして貯えられている糖の量による。

もし貯蔵量が少ないと、血糖上昇も少なく、糖の貯蔵がないと血糖は上昇しない。

この点で、アドレナリンの働きはグルカゴンのそれに似ている。

副腎皮質は数種のホルモンを産生している。

これらの化学的構造は互いにひどく似ているが、アドレナリンとは全然異なっている。

どの皮質ホルモンも代謝過程に影響するが、あるものは身体の無機成分の代謝に、またあるものは糖や蛋白質の代謝に影響する。

後者のグループのホルモンは糖質コルチコイドと呼ばれている。

(中略)

糖質コルチコイドの糖尿病促進作用は下垂体エキスや成長ホルモンよりも弱い。

皮質ホルモンを極めて長く投与しても注射をやめると糖尿病状態は消退してしまうことが多い。

成長ホルモンと糖質コルチコイドは糖質や脂肪や蛋白質の代謝の極めて強力な調節ホルモンである。

とはいえ、他のホルモンにも血糖をある程度、そしてある期間変化させるだけの代謝過程に対する作用のあるものがある。

たとえば甲状腺、卵巣ホルモン、および、成長ホルモンとは異なる下垂体前葉ホルモンたるACTHにもまた代謝作用がある。

下垂体は上位の内分泌腺であって、その分泌は上述の他の内分泌腺の全部の働きに影響を与えることを念頭に置くべきである。

したがって、糖代謝に対する下垂体エキスの影響のいくらかはこれらの他の腺の仲介によるものであるかもしれない。

(現在、いろいろな病態の改善のために各種のホルモンを治療で使用することがありますが、その量や使用期間、使用時期について細心の注意をしつつ処方されていることを付け加えさせていただきます。)

参考書:インシュリン物語    G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版

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