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副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む⑭四 インスリンを理解するために その12 抗インシュリン因子)

[2024.05.16]

《インシュリン物語の続きです》

標準量のインシュリン注射後、血糖が下降する程度やその下降速度は組織のインシュリンに対する感受性の目安となる。

血糖の下降が著しく急速であればインシュリン感性は高い。

逆に血糖下降が軽度で、緩慢であるとインシュリン感性は低い。

下垂体や副腎の機能を喪失すると、インシュリンに対抗する力がなくなり、そのような人ではインシュリン感性は著しく高く、ごく微量のインシュリンによっても血糖は下降する。

逆に糖尿病者で、一日に何百何千単位ものインシュリンを注射しないとコントロールできないようなインシュリン不感性の患者も稀にある。

組織に対するインシュリンの作用を抑制する因子を見出し、これを精製純化することはインシュリン不感性の原因のいくらかを理解し、分析する助けとなる。

血中に酸性のケトン体が大量にあるような糖尿病昏睡患者では、血糖レベルを正常に戻し、アシドーシスをとめるのに大量のインシュリンが必要であることがインシュリン創製の初期から知られている。/p>

アメリカのステットン等は(当時の)最近、糖尿病のアシドーシスのときには、インシュリン作用を抑制するある蛋白が血中に出てくることを見出した。

インシュリン治療を効果的に開始すると、数時間の中に、この蛋白はあとかたもなく消えてしまうという。

もう一つのインシュリン抑制物質が、膵臓剔出後やインシュリン分泌ベータ細胞の破壊後の血中に証明されている。

オーストラリアのJ・ボルンスタインやアメリカのC・パークにより試験管内の実験で、そして後にイギリスのJ・ヴァランス・オウエンによる動物実験で、この蛋白の出現が下垂体および副腎の分泌と関連をもっていることが示された。

この形のインシュリン拮抗物質の欠如は下垂体や副腎剔出後の動物のインシュリン感受性増大を説明するものである。

その存在はまた、下垂体や副腎皮質ホルモンの催糖尿病効果を説明しよう。

インシュリンの効果を抑制する特に興味ある物質はインシュリン抗体である。

この物質はそれ自体蛋白であるところのインシュリンと結合する蛋白であることがわかっている。

「抗体」という名前はこれらの蛋白の性格がちょうど体内に細菌毒素や異種蛋白が入ってきた時の防衛反応として作り出される抗体と似ていることからつけられたものである。

いうまでもなく、牛の膵臓から抽出してある(当時の)インシュリン製剤は、人体にとっては異種蛋白なのである。

インシュリン抗体は血中でインシュリン分子と強い比較的安定な結合をしている。

そのような結合インシュリンは作用を営むべき場所に達することができず、無効である。

幸いにして、血中のインシュリンが全部抗体と結合するのではなく、結合していないインシュリンは作用を発揮して血糖レベルを下げる力がある。

存在する抗体の量によってインシュリン感性は変わる。

もし抗体の量が小さくてインシュリンの大部分が結合しないでおれば、インシュリンの感性の低下はそれほどひどくない。

現在(当時の)進行中の研究によって、インシュリンと、インシュリン抗体の結合の詳細が明らかにされつつあり、インシュリン抗体は一旦結合したインシュリンの一部を暫く経ってから遊離させるといわれ、注射後何時間も経てば抗体のある糖尿病者でもインシュリン作用が現れてくるという。

インシュリンに対する抗体は他の動物からのインシュリン、つまり異種蛋白を長期間注射した人間に起こってくる。

大多数の患者では抗体形成は軽度で、インシュリンと結合する量が小さいためインシュリン感性に余り悪化は起こらない。

一部の患者では抗体形成が甚だしく、注射インシュリンの大部分が結合してしまって高度のインシュリン耐性を示すことがある。

1日に何千単位ものインシュリンを注射せねばならない患者がそうであって、その血中にインシュリン抗体が存在することが実証されている。

インシュリン抗体についてはまだ多くの未解決の問題がある。

インシュリンとインシュリン抗体の間の結合の正確な機序は何か?

カナダのウイルスン達は抗体がインシュリン分子のA鎖の一定の部位に結合することを示す知見を手にしている。

彼らは牛のインシュリンに対する抗体が牛のインシュリンのA鎖と鱈のインシュリンのB鎖をくっつけた半合成インシュリンとは結合するが、牛のB鎖と鱈のA鎖との半合成インシュリンとは結合しないことを明らかにした。

多くの哺乳類のインシュリンA鎖には大きな違いはないので、ある抗体が各種の哺乳類のインシュリンのどれにも結合することも説明できよう。

それでは、インシュリン抗体が存在するだけで糖尿病が起こるだろうか?

トロントのP・モロニーとM・コバルは、インシュリンをあらかじめ注射してインシュリン抗体を含むようになったモルモットの血清をマウスに注射して重症の糖尿病を起こさせた。

英国のP・ライトもモルモットのインシュリン抗体をラットと猫に注射して同様の結果を得ている。

どうすれば一部の糖尿病者の抗体の過形成を防止することができるであろうか?

これは未解決の問題である。

。。。。。。。。。。。。。

【補足】インスリン開発の歴史の説明が必要ですが当初は動物や日本では鯨や魚のインスリンを抽出して用いられていましたが現在は健常なヒトインスリンと同じ構造の製剤が開発され、ヒトインスリン製剤またはインスリンアナログ製剤が使われています。

参考書:インシュリン物語    G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版

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