副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む㊱一 新しいインシュリン その2)
今月もインシュリン物語を読んでいきます。
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ある動物が作った蛋白を他種の動物に注射すると、疼痛や腫瘍のような局所反応が起こる。
こうした反応を念頭において、デンマークの医学研究陣はインシュリンに蛋白を結合させるのとは異なった方法で、亜鉛を結合させてインシュリン作用を緩徐にしようと再び試みた。
1945年に研究を始めて、ノボ会社の、K・ハラス・メーラーは作用時間はグロビン・インシュリンに近いがインシュリン以外の蛋白を含まないレンテ・インシュリンを作ることに成功した。
レンテ・インシュリンはインシュリンと亜鉛の結合物を二種類一定の割合で混ぜたものである。
一つはセミ・レンテと呼ばれ、血液に溶けてレギュラー・インシュリンのように速効のものである。
もう一つはウルトラ・レンテと呼ばれ、血液に溶けにくく、作用がPZI(プロタミン亜鉛インシュリン)のようにごく緩徐なものである。
ハラス・メーラーたちは血液に溶ける程度によって亜鉛・インシュリン製剤の作用の速さが決まるものであるという結論に達した。
この種の考案あるいは仮説をもって、科学者たちは実験の次のステップは何かを決めるものである。
膵臓ランゲルハンス島に亜鉛が存在すること(訳注 日本の岡本耕造によって初めて発見された)、インシュリンを結晶化させる亜鉛の役割、そしていま初めて明らかにされた亜鉛インシュリン製剤の溶解度と作用の関連は、ランゲルハンス島でインシュリンがどのようにして作られ、蓄えられ、分泌されるのかを解く一つの鍵となるかもしれない!
そしてそのような知見が重ねられれば、血糖のレベルが上がるとそれに応じた速さで血中に溶け込むように、血糖のレベルそのもので作用が調節されるようなインシュリン製剤が作れるかもしれない。
あるいはまた同じ役割を狙った、違うアイディアが出てくるかもしれない。
インシュリンを研究している人にとっても、また新しい発見のたびにその恩恵に浴して自分の糖尿病をよりよくコントロールできる患者たちにとっても期待される未来が残されている。
糖尿病者の治療用に大規模にインシュリンを抽出精製する方法も生産の初期の闘いが乗り切られて以来進歩し大いに変わっている。
カナダで用いられている商業用製産方式はA・M・フィッシャーと一緒に働いたR・G・ロマンスによって塩アルコール法と呼ばれている。
膵臓は屠殺直後の牛から取り出され集められる。
次いで冷蔵庫に入れて凍結され、インシュリンが細菌や膵臓内にある消化酵素で破壊されないようにする。
凍結されたまま、大量の膵臓がインシュリン抽出工場に送られてくる。
何百ポンドかの膵臓が一度に抽出される。
細断器で小さく切り刻まれ、大量の食塩と少量の酸を含むアルコール液と十分に混ぜ合わされる。
細菌と消化酵素は不活性化されるが、インシュリンは、この塩辛い酸性アルコールによく溶ける。
約2時間後に溶け出したインシュリンを含んだ液の大部分を遠心分離で膵臓残渣と分離し、この酸性アルコール抽出過程を何度か繰り返して、できるだけインシュリンを抽出する。
アルコールの大部分は抽出液から分離回収される。
水の中に入れた油のように、残ったアルコール濃縮物と混ざらない液で、インシュリンは溶けないが不純物や脂肪が溶けやすい液が添加され、後で除去される。
残りのアルコールは真空蒸留で除かれるが、この際、液をインシュリンを不溶性にするような適度の酸性にしておくので、インシュリンを沈殿物として集めることができる。
この方法は膵臓からインシュリンを抽出するいままで(当時)の方法の中で一番効率のよい方法である。
なぜ効率がいいかという理由はよくわからない。
ただ推測できるだけである。
組織を抽出に先立って凍結させると、組織内の水が小さい水の針を形成して細胞膜を破る。
赤血球でも、これを濃い食塩水の中に入れると、ペシャンコになった袋のように萎んでしまう。
膵臓のような他の無傷な細胞も同じようになると思われる。
アルコールの中に含まれた酸は細胞膜を溶かし去って、ランゲルハンス島内に蓄えられたインシュリンは酸性アルコール液にさらされ、これに溶け込む。
したがってこれらの過程が積み重なって無傷な細胞や傷ついた細胞の内容物を抽出液中に溶け出させるのである。
抽出過程の終わりに沈殿したインシュリンが取り出され、乾かされ、亜鉛を加えて結晶化させられる。
微量な他の物質を除くために結晶化過程は何度か繰り返される。
最終的に精製の終わったインシュリンは、インシュリン分子は通すが細菌は通さないような大きさの孔をもった篩(ふるい)を通して細菌を除く。
ビン詰めのインシュリンを注射するときに細菌が新しく入りこんで殖えるのを防ぐために少量のフェノールとクレゾールを殺菌の為に添加する。
インシュリンの濃度は表示された濃度に注意深く調整され、小さな消毒済みのガラス製バイアル(注射用のビン)に入れられる。
そしてゴム栓をして、このゴム栓を通して注射針でインシュリンを取り出せるようにする。
市販される前にインシュリン製剤はインシュリン量測定やその他の検査に合格することが法的に要求されている。
(また次の項に続きます)
参考書:インシュリン物語 G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行
