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副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む㊲一 どれだけのインシュリンを? その1)

[2026.05.16]

インシュリン物語の続きを読んでいます。

病気に罹った人が医師の診察を受ける時、医師は徴候(サイン)を調べ患者に症状を述べるよう求める。

徴候というのは顔面蒼白、発汗、痩せ、糖尿のように医師が目でみたり、測定したりできるものである。

症状(シムプトーム)というのは、吐き気、だるさ、渇きのように患者自身が感じる感覚である。

インシュリンの過量投与ないし効き過ぎによる著しい血糖低下(低血糖)とこれに伴う特徴的な症状とは、2人の発見者や最初の研究チームの臨床家フレッチャーとキャンプベルにより早くからしばしば経験された。

その徴候と症状とは1922年にこれらの臨床家たちにより人間の患者について極めて明確に記載され「低血糖反応」という言葉が生まれた。

フレッチャーとキャンプベルは記している。

「初発症状はイライラしたり、ゾクゾクするような感じであり、ときにはひどく空腹を覚え、またときにはだるかったり気の遠くなるような感じがある。次いで起こる客観的徴候のうちで最も多いのは夥しい発汗である。顔面蒼白あるいは潮紅も普通にみられ、時には脈搏に変化がある。小児ではこの脈搏数の増加はしばしば低血糖の診断の手がかりになる。成人ではむしろ発汗が目立つ。同時に自覚症状も激しさを増し、イライラする感じは、はっきりした苦悶や興奮あるいは感情錯乱にさえなる。・・・中には眩暈や複視(物が二重にみえる)を訴えるものがある。・・・さらに血糖が下がるとはるかに重篤な症状がみられ、稀には意識喪失状態にまで進む。」

低血糖を制御する治療方法を研究して、フレッチャーとキャンプベルは「最も満足できる成績はグルコースで得られた。・・・オレンジジュースも成功裡に使用されている。」・・・「エピネフリン(アドレナリン)は・・・患者が意識を失っているような低血糖をコントロールすることができる。」・・・「それほど重くない低血糖は、のむことができるならブドウ糖を嚥ます。このような例では回復は驚くべく早い。そして患者の血糖レベルの回復と直接の関係がある。」目標は血糖を速やかに高めることである。アドレナリンを皮下に注射すると肝臓を刺激して、そのグリコーゲンをブドウ糖に変えさせ、これを血中に出すのである。

彼らはまた、血糖レベルを正常またはそれ以上に回復させるに足る量のブドウ糖を静注することがインシュリン反応の徴候と症状とを消散させる最も速い方法であることも指摘した。

これらの当時の臨床家たちがインシュリン反応を研究する機会に恵まれたことは、主として使っている溶液中のインシュリン濃度に関する知識がなかったことに起因していた。

それで過量投与がしばしば起こったのである。

特定の患者に一定の量を維持することは不可能であった。

当時ベストとスコットの作ったインシュリンの容器は小さなものであったので、患者は新しい容器に度々代え、インシュリンの濃度はその度に違っていた。

フレッチャーとキャンプベルは書いている。

「遅かれ早かれ、どの患者もみんな低血糖反応を経験するだろうと思われる。最も起こり易いのは患者が容器を代える時である。」

彼が言っているように、医師たちが当面採用したのはいろんな容器の注射液を入念に混ぜ合わせることと血糖値を反復観察することであった。

あるいは新しい容器からのインシュリンが届いた時は初め半量を注射し、前の容器のインシュリンを使っていたときの量とはひどく違っている可能性のある適量にまで漸増してゆくことであった。

それでもなお低血糖反応は度々みられた。

彼らのインシュリン治療患者たちがインシュリン反応を偶発する可能性があるために、医師たちは患者が病院に入院中に低血糖反応を経験しておくことが望ましいことに気付いた。

「そのような患者は反応の始まりに気付くのが早い。・・・そして対策がすぐにとられる。患者がいつでも必要な糖質、例えばオレンジ・ブドウ糖・キャンデー・穀粒・シロップや角砂糖を携行していることを勧める。」

この教育方針は今日でも近代的な臨床病院で踏襲されている。

事故や死の危険さえ伴うこの頻繁な悲しむべき反応によってインシュリン標準品の設定と効率の良いインシュリン定量法の確立が焦眉の要であることが明らかになった。

患者や医師が、どのインシュリン製剤も表示の通りの力価を持っていることを信頼できるようにしなければならなかった。

注射の量が「多すぎても」また「少なすぎても」危険であった。

前者は低血糖を起こすし、後者は糖尿病のコントロールを失わせる。

「どれだけ多く」であるかを知ることは不可欠なことであった。

溶液であろうと乾燥末であろうとインシュリン濃度のための単位が設定され、そのような濃度を測定する方法が考案されねばならなかった。

(その2に続きます)

参考書:インシュリン物語 G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 

 

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