副院長ブログ(免疫システムを知る⑱ 腸管免疫のことを少し)
前回、活性化T細胞は4種類あることを学習しました。
腸管にはからだ全体の免疫細胞の50%以上が存在していて、1000種類以上の細菌が常在しその数は1000億を超えていて常に腸管からの微生物侵入の危険にさらされながらも、免疫システムによって良い状況が保たれています。
マウスの実験で、腸管の粘膜固有層(粘膜上皮の下層にある、リンパ系組織と毛細血管やリンパ管のある結合組織)には17型の活性化ヘルパーT細胞が圧倒的に多いことがわかり、全身のなかでもこの場所に最も多く存在するのだそうです。腸管免疫のアクセルといえる活性化17型ヘルパーT細胞への分化を強く促しているのがセグメント細菌とよばれる特定の腸内細菌であることがわかっています。セグメント細菌はIgA産生とも関係しているとの報告があります。
一方、クロストリジア属の第46株という細菌が大腸に主に存在していて、腸管免疫のブレーキといえる制御性T細胞への分化に関わっていると考えられています。
そのような腸内細菌が免疫システムに攻撃されない理由として
・腸管の粘膜上皮細胞でのパターン認識受容体が(食細胞やB細胞では細菌の鞭毛タンパク質フラジェリンを感知するTLR5は細胞表面に生えていますが)腸管内側の表面には生えておらず粘膜固有層側だけに生えていることにより粘膜上皮層から侵入せず単に腸管にへばりついているだけの細菌に対しては免疫反応が起きない。
・腸内細菌はその腸内細菌自体が免疫反応を起こしにくいように鞭毛を体内に引っ込めていたり鞭毛が退化したり、細胞壁の構造を少し変えるなどの進化が起きているのではないか。
などと考えられています。
それでも腸内細菌に対するIgAは作られていて多少は排除されるけれども増殖とのバランスで数が保たれているか、何らかの理由でIgAの攻撃を免れる場所があるのかもしれないとも考えられています。
考えられている、という表現の通り、まだまだ未知の世界ですが、腸管は免疫系だけでなく内分泌系、神経系としての役割も持っており、それぞれが協力し合うことで恒常性を保っているようで、その仕組みについて日々研究が進められています。
参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博 参考文献:クロストリジアと免疫 理化学研究所統合生命医科学研究センター 消化管恒常性研究チーム 本田賢也 腸内細菌学雑誌 27:187-196、2013