副院長ブログ(免疫システムを知る㉛自然免疫の高度な働き、その4 インフラマソーム)
自然炎症についての学習をさらに続けます。
病原体センサーとしてのパターン認識受容体は全身の細胞に分布しています。
細胞膜や細胞内の小胞膜にあり病原体のいろいろな構成成分を認識するTLR以外に、細胞膜に存在して、真菌の細胞壁構成成分を認識するCLR、細菌やウイルスの構成成分を認識するNLR、ウイルスのRNAを認識するRLR、ウイルスのDNAを認識するcGASなどがあります。
これらのパターン認識受容体は病原体の構成成分を認識するだけでなく、自分の身体の構成成分を認識できるということがわかってきたのですが、
認識する成分には2種類あり、
ひとつは、病原体成分に特有に存在する分子パターンPAMP(pathogen-associated molecular pattern:病原体関連分子パターン)、
もうひとつは、細胞が壊れたときに放出される分子パターンDAMP(damage-associated molecular pattern:傷害関連分子パターン)と呼ばれています。
病原体センサーは自己成分でないPAMPだけでなく自己成分であるDAMPも認識するということです。
PAMPのみならずDAMPによってもパターン認識受容体が刺激され、細胞から炎症性サイトカインや他の炎症を起こさせる物質が作られます。
遊離脂肪酸、コレステロール結晶、アミロイドβのようなDAMPは不適切な食生活や組織に対するストレスなどで生まれ、うまく排泄されないと少しずつ組織に蓄積して慢性的な炎症の原因となります。
PAMPやDAMPをうまく排除しないと炎症反応が進み、炎症の慢性化が起きます。
自然免疫系のセンサーが刺激されると、その信号が細胞核に到達して、炎症性サイトカインやⅠ型インターフェロンの遺伝子が活性化されますが、
炎症性サイトカインのうちIL-1やIL-18はそのままで働くことができず、カスパーゼ(カスペース1)という酵素によってその構造の一部が切り取られて活性化することで機能することができます。
カスパーゼもはじめは活性を持たず、インフラマソームという分子複合体により活性化されないと酵素活性が発揮できません。
細胞内で炎症性サイトカインが暴走しないように安全弁が働いていますが、その安全弁を外すのがインフラマソーム複合体です。
インフラマソームは4種類が知られていて、そのうちの3種類は自然免疫センサーのNLRが構成成分となっています。
細胞内では三つの構成成分(例えばNLR、アダプタータンパク質、カスパーゼ)が別々に存在していてインフラマソーム複合体は作られていません。
PAMPやDAMPなどの炎症性刺激が細胞に入るとインフラマソームの構成成分が集まって複合体が作られます。
インフラマソーム複合体がさらに集まって巨大なインフラマソーム複合体が形成され、活性型カスパーゼが作られ、活性型IL-1やIL-18が細胞外に分泌され、炎症反応が拡がっていきます。
炎症性刺激が消えるとインフラマソーム複合体はばらばらになり、その機能を失います。
インフラマソーム複合体は炎症が起こるとき短時間に作られて炎症が止まるときに分解されるという機能的サイクルを持っています。
その形成と分解のサイクルが乱れると、消えるべきインフラマソームが消えず炎症が悪化してしまいます。
最近見つかったいくつかの遺伝性の全身性炎症性疾患でこのサイクルの乱れが見られ、その原因がインフラマソームを形成する成分の遺伝子変異であることがわかってきているそうです。
インフラマソームの異常で全身に炎症が起こってしまうということで、インフラマソームが炎症の仕掛け人であるというわけです。
次回はインフラマソームの異常が原因となる疾患について学習します。
参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博
免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か 著者:宮坂雅之/定岡恵