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副院長ブログ(免疫システムを知る㉜自然免疫の高度な働き、その5 NLRP3インフラマソームと疾患 )

[2023.03.31]

自然炎症の続きです。

インフラマソーム複合体は炎症が起こるとき短時間に作られて炎症が止まるときに分解されるという機能的サイクルを持ち、その形成と分解のサイクルが乱れると、消えるべきインフラマソームが消えず炎症が悪化してしまうのでした。

インフラマソームの異常な活性化が原因となる遺伝性の炎症性疾患が最近見つかり、自己炎症性疾患と総称されている病態があります。

リウマチや膠原病などの自己免疫疾患とは異なり、自己炎症性疾患とはインフラマソームの異常活性化をきっかけとして起こる病態で、すべての細胞でインフラマソームの活性化がみられ、からだじゅうで炎症性反応が起こります。

クライオピリン関連周期熱症候群はインフラマソームが活性化して産生されるインターロイキンIL-1の働きを止めることで改善されることからインフラマソームの活性化が原因と考えられている疾患でクライオピリンはNLRP3の別名とのことです。

NLRP3遺伝子に先天的な変異があるためにNLRP3インフラマソームが活性化されやすく、組織でいろんな炎症がおこるということで、IL-1を抑える薬やIL-1の受容体を抑える薬が有効です。

家族性地中海熱という疾患はインフラマソームを構成するパイリンというタンパク質に変異がありインフラマソームが異常活性化するのですが、この疾患でもIL-1を抑える薬が効果あるようです。

この疾患に対してコルヒチンが細胞内の微小管が重合するのを阻害することでインフラマソーム複合体形成阻害をする作用があるため非常に良く効くそうです。

コルヒチンのことは痛風の学習にもでてきました。

コルヒチンが痛風に効果があるということから痛風もNLRP3インフラマソーム異常活性化疾患のひとつであることがわかったのでした。

尿酸結晶のほかにも、結晶のような構造をとる物質を食細胞が取り込んだときにNLRP3インフラマソーム複合体が活性化して炎症を起こすことが関わる疾患が複数わかっています。

動脈硬化はコレステロールの結晶を食細胞が食べるとNLRP3インフラマソームが刺激され、活性型IL-1が作られ、動脈壁にさらに炎症細胞が集まってきて動脈壁が傷つき、それを修復するときに線維芽細胞が増えて血管壁の弾力性がなくなり硬くもろくなるという病態です。

悪性中皮腫は石綿のアスベストを吸入していたことによる悪性腫瘍で中皮細胞ががん化するのですが、アスベストがDAMPとしてNLRP3インフラマソームを刺激して活性化させて、組織に持続的な炎症を発生させることがわかってきたそうです。

シリカによる珪肺も吸入することによって炎症がおきる仕組みが同様に考えられています。

2型糖尿病の患者さんの膵臓には膵島アミロイドポリペプチドというタンパク質の沈着がみられることがあり、膵臓のβ細胞からインスリンとともに産生され構造的に凝集しやすく組織に溜まりやすい性質がありNLRP3インフラマソームを刺激して活性型IL-1、IL-18などの炎症性サイトカインを作らせます。

IL-1はほかの炎症性サイトカインTNF-αを炎症細胞に作らせ、IL-1やTNF-αは細胞へのインスリンの働きを弱めてインスリン抵抗性をもたらすことで血糖値があがることになります。

またIL-1は遊離脂肪酸とともに膵臓のβ細胞にストレスを与えて傷害してインスリン産生を減少させます。

アルツハイマー型認知症はアミロイドβというタンパク質が凝集して老人斑が形成され神経細胞が傷害される疾患ですが、アミロイドβは神経細胞やその周囲のグリア細胞で作られ多量体を作って凝集しやすく、それが脳の食細胞(ミクログリア)に取り込まれるとNLRP3インフラマソームが刺激されて活性型のカスペース1がつくられて活性型IL-1が作られます。

アルツハイマー型認知症や糖尿病については別の回を設けたほうがよさそうです。

アミロイドβ、コレステロール結晶、膵島アミロイドポリペプチドのようなDAMPは不適切な食生活や組織に対するストレスなどで生まれ、うまく体内から排泄されないと少しずつ組織に蓄積して慢性的な炎症の原因となりますから、適度な運動や食生活、睡眠や休養などでのストレスの軽減を大切に考えていきたいですね。

しかし!いくら適切な食事や運動をしていても疾患が起きてくる場合もあると思われ、そこに何かまだ解明されていないメカニズムがあるような気もしています。

参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博

免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か 著者:宮坂雅之/定岡恵

 
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