副院長ブログ(免疫システムを知る㉞自然免疫の高度な働き、その7 抗炎症性マクロファージ)
自然炎症のなかにはNLP3やTLRが関わるものがあることを学習しました。
TLRなどのパターン認識受容体が内在性リガンドを認識しておこす自然炎症が炎症性疾患に関係している可能性が高まっていて、
これまで原因不明の炎症性疾患が自然炎症によって引き起こされていることが判明することが増えると考えられます。
パターン認識受容体は病原体も内在性リガンドも認識し、自然炎症を起こしたり、獲得免疫を発動させたりもします。
自然炎症が行きすぎると炎症性の疾患を起こし、獲得免疫に誤作動がおこると自己免疫疾患を起こします。
免疫と炎症は関連し合っているのです。
自然免疫の過程で異物を食べたり炎症を起こしたりする食細胞であるマクロファージを1型マクロファージと呼ぶのに対して、
ある状況のもとで炎症を抑えたり組織の修復をするマクロファージもいることがわかってきて2型マクロファージと呼ばれています。
2型マクロファージが欠損しているマウスでは脂肪から遊離脂肪酸がどんどん外へ出てしまい、血中のコレステロールや中性脂肪の濃度が上がってしまいます。
このマウスに脂肪食を食べさせるとほとんどのマウスが糖尿病状態になったそうです。
2型マクロファージは病原体をやっつけるという役割ではなく、身体のなかのいろいろの組織と交流してそれらの機能を維持しているらしいのです。
正常マウスの脂肪組織では2型マクロファージが多数を占めるますが、肥満マウスの脂肪組織では1型マクロファージが多数を占めることがわかりました。
マウスだけでなくひとにおいても肥満の進行とともに脂肪組織で2型マクロファージが減って1型マクロファージが増えてくるそうです。
2型マクロファージのかわりに1型マクロファージが多数になるのはなぜなのかははっきりわかっていませんが、
肥満とともに増加する特定の脂質(特に長鎖飽和脂肪酸)がパターン認識受容体のTLR4を直接的あるいは間接的に刺激して脂肪組織で炎症性サイトカインが作られるようになり、マクロファージが活性化されて2型から1型に変化すると考えられています。
正常な組織で2型マクロファージが多い理由は2型マクロファージの分化に必要なIL−4というサイトカインを作るTリンパ球や自然リンパ球がもともと脂肪組織には多く存在するためであるようです。(どうしてそれらが多く存在するのかはわかっていません)
1型マクロファージはIL−1やIL−6、TNF−α、Ⅰ型インターフェロンなどの炎症性サイトカインを放出します。
赤く腫れ上がって熱をもって痛むような状態ではないですが一種の炎症状態が起きて、そのためにインスリン抵抗性を来し糖尿病の準備状態を招きます。
その一方で、2型マクロファージは組織にもともと常在しているマクロファージが別の刺激を受けて分化してできる細胞で、
主にIL−10というサイトカインを作ります。
IL−10は樹状細胞やマクロファージに働いてその活性化を阻害して炎症反応を抑える働きがあります。
2型マクロファージは傷ついた組織の修復や血管新生などを助ける働きももっているようで、
がん免疫にも関係するといわれています。
次回から、がんと自己免疫疾患の章に入っていきます。
参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博
免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か 著者:宮坂雅之/定岡恵