副院長ブログ(免疫システムを知る㊱がんと免疫、その2)
「がんペプチド」がもとは自己ペプチドであることから、患者さんのがんゲノム(遺伝子)全配列を調べる試みが始まっています、という続きです。
ゲノム全配列を調べる、というのはできるようになったころは何年もかかる作業でしたが最近は(お金はかかりますが)数時間でできるようになっていて、多くの人々の遺伝子解析結果が蓄積されつつあります。
遺伝情報の総てである全ゲノムを調べることは重要なことで、その塩基配列に変異があると、そのことが病気の原因になることが考えられます。
がん細胞のゲノムと正常細胞の細胞のゲノムで全塩基配列を比較し、がん細胞だけに生じている正真正銘の変異を見つけ、ペプチドを合成すると、
このようなペプチドはもともと患者さんのからだに存在しないペプチドなので、対応するナイーブキラーT細胞が胸腺の負の選択に引っかかることはなく、
病原体のペプチドと同様に、強力な免疫反応を引き起こすことができます。
複数のペプチドを使ってがんの変異に備えるとしたら、ひとつのペプチドが変異しても、他のペプチドが有効であることが考えられます。
がんペプチドワクチン療法はもともとからだに備わる免疫のしくみを利用するので副作用が少ないという利点があります。
複数のペプチドを使うことで大きくなった難治性のがんに対する効果も期待されます。
「ペプチドワクチン療法」ではなく、それ以前からある「化学療法」ではいろいろな抗がん剤が用いられており、
抗がん剤には、がん細胞にアポトーシスをおこすものが多いですが、一部のがん細胞でネクローシスをおこすものがあり、
がん細胞のネクローシスが自然炎症を起こします。
正常細胞のネクローシスとは違ってがん細胞は多くの変異を含んでいて、樹状細胞に取り込まれてMHC分子に提示されるペプチドのなかには変異ペプチドも現れて、獲得免疫を始動してナイーブキラーT細胞、ナイーブヘルパーT細胞が抗原特異的に活性化します。
大量のがん細胞がネクローシスをおこすことで「がんペプチドワクチン療法」とおなじことが起き、がん細胞が含む変異ペプチドの多くがMHC分子に提示されるので必然的に複数のペプチドで免疫活動が行われることになります。
(今回はこの辺にして次に続きます、暑中お見舞い申し上げます。)
参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博