副院長ブログ(免疫システムを知る㊳自己免疫疾患が発症するポイント)
免疫システムが本来攻撃しないはずの自分を攻撃してしまうことで起きる病気が自己免疫疾患です。
特定の臓器に限定された臓器特異的自己免疫疾患と、全身性自己免疫疾患に大別されます。
難病に指定されているものが多く、そのメカニズムはよくわかっていません。
これまで学習してきた免疫ストーリーにそって、どのようなポイントで自己免疫疾患が発症しうるのか、みてみましょう。
(これまで学習してきたブログの関連箇所も添えます。)
「抗原提示」(免疫システムを知る⑥)
病原体を貪食して活性化した樹状細胞のMHCクラスII分子には自己ペプチドも乗っています。
自己反応性のナイーブヘルパーT細胞が存在し、制御性T細胞が働かなかったら、自己反応性のナイーブヘルパーT細胞が活性化してしまう。
感染症をきっかけに自己免疫性疾患を発症する例が多いのはこのメカニズムが関係している可能性があります。
病原体由来の抗原ペプチドが自己ペプチドに似ていて自己反応性のアナジーT細胞を再活性化することも知られています。
「B細胞と活性化ヘルパーT細胞の相互作用」(免疫システムを知る⑧⑨)
自己反応性のナイーブB細胞が自己成分と抗原の合体物の自己成分側にくっつくと、B細胞のMHCクラスII分子には抗原由来のペプチドも提示されるので、相互作用できる活性化ヘルパーT細胞が存在して、自己反応性のナイーブB細胞が活性化してしまう。
「親和性成熟」(免疫システムを知る⑩⑪⑫)
突然変異によって自己反応性の活性化B細胞もできてきて、これがきちんと死ぬシステムが破綻していると、自己抗体が放出されてしまう。
自己免疫疾患の患者さんから得られる自己抗体に突然変異の痕跡が多くみられることはこのポイントで自己免疫疾患が起こりうることを示しています。
「抗原提示」(免疫システムを知る⑬⑭)
病原体を食べて活性化した樹状細胞のMHCクラスI分子には自己ペプチドも乗っています。
自己反応性のナイーブキラーT細胞が存在し、制御性T細胞が働かなかったら、自己反応性のナイーブキラーT細胞が活性化してしまう。
この場合ヘルプする活性化ヘルパーT細胞は自己反応性である必要はありません。
「胸腺での負の選択」(免疫システムを知る⑮)
自己ペプチド(MHC分子+自己ペプチド)と強く結合するT細胞はアポトーシスをおこしますが、このアポトーシスをおこすシステムが破綻していると、自己反応性のナイーブT細胞ができてしまう。
「制御性T細胞」(免疫システムを知る⑯⑰)
制御性T細胞がうまく働かないと、自己反応性のナイーブT細胞、ナイーブB細胞の活性化を許してしまう可能性が高まる。
「自然炎症」(免疫システムを知る㉘〜㉞)
TLR(トル様受容体)などのパターン認識受容体は体内で大量に細胞が死んだときなどは一部の自己成分も認識し、活性化した樹状細胞に自己ペプチドだけが提示される状況が起こりうるため、制御性T細胞のフォローが足りないと、自己反応性のナイーブT細胞、ナイーブB細胞が活性化してしまう危険性がある。
これまで学習してきた免疫システムの中で、自己免疫疾患を発症するポイントが挙げられました。
発症にはこのようなポイントでの誤作動や遺伝子変異が関係すると考えられますが、まだまだよくわかっていません。
ですが、こうして見てみると、免疫を制御するシステムがきちんと働いていることが大事なことだと思われます。
次回この参考書での学習のまとめをします。
参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博