メニュー

副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む② 五.糖尿病 6.糖尿病のための錠剤)

[2023.05.14]

今回は「インシュリン物語」から飲み薬の研究について書かれた部分を抜粋します。。。。。

内服によって血糖レベルを下げる、いわゆる「経口血糖降下剤」の研究を臨床試用の物語にはインシュリンの物語と重要な違いがある。

インシュリンの使用はその発見直後から急激に高まったが経口血糖降下剤が現在のように利用されはじめたのは、その作用が初めて観察されてから10年以上も経ってからのことである。

1942年初めにフランスのモンペリエの医学校のM.ジャンボンらは新しいサルファ剤を腸チフスに試みていた。

この薬は「パラアミノベンゾール・スルフォナマイド・イソプロピル・サイオジアゾール」という化学名でIPTDと省略して呼ばれていた。

IPTDを内服させると、特に栄養不足の患者の一部に脳の働きが異常を来し、中には低血糖を来すものがあり、既にインシュリンを完成させていたモンペリエのルバチエが、この薬を内服するとインシュリン分泌が促進されてちょうどインシュリンを注射したときのように低血糖がおこるのだろうと推測した。

1946年にルバチエは犬と兎を用いて、IPTD内服後の血糖降下作用は膵のインシュリン産生β細胞が存在して初めて見られることを明らかにした。

「ランゲルハンス島の解剖学的な障害に由来する糖尿病の他に、もう一つの機能的障害による型もあると考えられる。

島細胞は正常のようにみえるが、血糖レベルを正常に保つのに必要なだけのインシュリンを放出していない型である。

我々が研究しているスルフォナマイド剤を適用するのが理にかなっている糖尿病の型というのはこれである。」とルバチエは述べた。

臨床応用が報じられたのは1955年の秋で、F.ベルトラム、H.フランケに率いられるドイツの二つの臨床グループがBZ55と後に呼ばれたスルフォナマイドの一種カルブタマイドの少量を与えることにより一部の糖尿病患者の血糖をコントロールすることに成功した。

その一ヶ月後にルバチエもIPTDを用いて同様の成功をしている。

化学者たちはBZ55と少し違う構造式の物質を合成し、生理学者がその効力を調べた。

その中にトルブタマイドやクロルプロパマイドがあり有効であった。

これらの薬はアリルスルフォナマイドという化学的グループに属することをルバチエが指摘したが、一般にはやや正確を欠くがスルフォン尿素剤と呼びならされている。(現在のスルフォニル尿素剤・SU剤のこと)

新知見の会議の議長であったレビン博士はこれらの物質は「成人後に発症した糖尿病者の糖尿と高血糖を60−80%の成功率でコントロールするが、インスリン療法の場合と同じく、食事療法も必要なのであって、感染のような合併症が起きたら一時的にインシュリンに切り換えることも必要になるであろう。」と述べた。

1959年にアメリカのダンカンは「理想的にはクロルプロパマイド療法に適している患者は全体の10%ぐらいであろう。発症後あまり長い年月を経ていない糖尿病患者の80%は食事だけでコントロールでき、5%は小児で、残りの5%は不安定な型の成人糖尿病である。後の二つの場合にはクロルプロパマイド療法は成功しない。」と述べている。

研究はビグアナイドという物質についても行われている。この薬も血糖を下げるが、その作用機序はアリルスルフォナマイドとは全然違う。

ビグアナイド剤は1926年にドイツのフランク達が発見したジンタリンと化学的に似ている。

ジンタリンはスルフォニール尿素剤と違って体内でインシュリンが作られていない動物にも有効であったが臨床的には使えなかった。

臨床的に使われているビグアナイド剤の効果は患者の年齢や糖尿病罹病期間に関係ないが、食欲低下・悪心・嘔吐・倦怠などの副作用を起こすことが少なくない。

今後10年間にも多くの新しい薬物が開発され現在使用中の薬物の一部は副作用のより少ないものによって取って代わられるであろう。

ベストは1959年に「経口糖尿病治療の一つの新時代が来た。もしこれらの薬剤を注意深く使えば、適切に選択された多くの患者たちに大きな助けと快適な生活が与えられることは目に見えている。」という見通しを述べた。

参考書:インシュリン物語    G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版

HOME

ブログカレンダー

2024年4月
« 3月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME