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副院長ブログ(免疫システムを知る㉚自然免疫の高度な働き、その3 痛風)

[2023.01.31]

病原体がかかわらない自然炎症についての学習の続きです。

TLRなどのパターン認識受容体は全身の細胞に分布しているため内在性リガンドで自然炎症を起こしうるのは食細胞だけでなく全身の細胞ということになります、と前回学びました。

痛風は全身の関節で急性の炎症が繰り返し起きる病気で、

血液中に細胞の老廃物である尿酸が増えすぎると、尿酸結晶となって関節などに付着して、それを食細胞が取り込むと炎症が起こる、

というところまではわかっていましたが、なぜ炎症が起こるのかがわかっていませんでした。

風が吹いても痛むということで、痛風という名前がついたぐらい、足の親指の付け根などの関節が赤く腫れ上がって激痛を来す病気です。

せいたく病といわれていましたが、食べ過ぎ飲み過ぎでなくても、尿酸代謝がうまくいかない、尿酸が作られすぎたり、尿酸が排出されづらい病態がある場合に痛風は起こります。

尿酸は関節以外に血管の壁や腎臓の組織などにも溜まり、動脈硬化や腎機能低下とも関係があります。

ですから血中の尿酸値が高い場合、放置しないことをお勧めします。

それでは何故、炎症が起こるのか。

細胞内パターン認識受容体のひとつであるNLR(ノッド受容体)の仲間で、NLRP3というものがあります。

NLRP3が病原体の感染によるストレスを感知すると、強く炎症を起こす作用のあるインターロイキン1βというサイトカインが放出されますが、

食細胞の細胞質にはNLRP3があり、食細胞が尿酸結晶を取り込むと、細胞が刺激され、インターロイキン1βが放出され、

痛風の炎症はこのインターロイキン1βが起こしていたということがわかってきました。

さらに細胞内で起きていることをみてみましょう。

食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激で細胞内のミトコンドリアが損傷します。

するとSIRT2という酵素の働きが低下し、細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子が付着します。

その結果、損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動します。

小胞体のNLRP3とミトコンドリアがもつASCという部品と、カスパーゼという部品が加わって、インフラマソームという複合体が出来上がります。

インフラマソームはインターロイキン1βを食細胞内で成熟させて外に放出させます。

そのために強い炎症が起こり、激痛が起きます。

痛風の特効薬であるコルヒチンが微小管をこわすことでミトコンドリアを移動させずインターロイキン1βの放出を阻止することがわかったことから痛風が自然炎症で起きていることがわかってきたのでした。

ただし、微小管をこわすこと自体はよくないことなので、コルヒチンは痛風発作の激痛が起きたときのみ用いられます。

普段の処方としては尿酸の産生を減らす薬や尿をアルカリ性にして尿酸がたくさん溶け込んで多く排泄できる薬が使われます。

ちんぷんかんぷんな言葉がたくさんでてきました、次回はインフラマソームについて学習します。

参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博

    免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か 著者:宮坂雅之/定岡恵

 
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