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副院長ブログ(免疫システムを知る㊲がんと免疫、その3)

[2023.08.30]

がんペプチドワクチン療法をおこなっても効果が限定的となることがあります。

それは、がんが免疫システムを抑制しているためとも考えられます。

がんペプチドとアジュバント(免疫効果を高めるもの)を接種→樹状細胞が活性化してがんペプチドが抗原提示→抗原特異的にナイーブヘルパーT細胞やナイーブキラーT細胞が活性化、という反応を制御性T細胞が抑制してしまうことが多く、これはがんがもともと自己細胞であるから、ということが関係しているかもしれません。

制御性T細胞はCTLA4という分子を表面に出していて、活性化した樹状細胞に、ナイーブT細胞より優先して結合してしまいます。

CTLA4から樹状細胞に抑制性のシグナルが入るので樹状細胞表面での補助刺激分子の発現が減り、ナイーブヘルパーT細胞・ナイーブキラーT細胞の活性化がさらに難しくなります。

がん細胞自体もPD1Lという分子を表面に出していて、活性化T細胞に発現するPD1という分子に結合してT細胞の活性化を抑制します。

双方向的にPD1Lにもシグナルが入り、がん細胞に抗アポトーシスシグナルが伝わります。

これで活性化キラーT細胞が来て攻撃しても、がんはアポトーシスを起こさなくなります。

そのことから、CTLA4、PD1、PD1Lなどの分子をブロックする方法が考案されています。

将来的にはがんペプチドワクチン療法と抑制的な分子をブロックする方法が併用されることでしょう。

そのほかにがんが免疫を抑制している理由として、がんの出すサイトカインは活性化ヘルパーT細胞を2型に誘導するため、(活性化のために活性化1型ヘルパーT細胞が必要な)ナイーブキラーT細胞が活性化しにくくなるという現象もあります。

がんの出すサイトカインは2型マクロファージを呼び寄せ、2型マクロファージは炎症を抑えるサイトカインを出すので周囲はさらに免疫抑制的になります。

がんの血管新生を助けるということもしてしまいます。

このように手強いがんに対して、

がんペプチドワクチンの他に、抗体療法というものもあります。

がん細胞の表面には増殖に関する受容体があります。

これに抗体を結合させて機能を消失させがんの増殖を抑えるという考えです。

抗体が人工的に合成されて、乳がんや大腸がんなどで治療に用いられています。

増殖に関係する受容体の機能消失が第一目的ですが、抗体を介して自然免疫細胞によるがん細胞の貪食も誘起される利点があります。

(この参考書発刊当時以後、現在では患者さんのがんにこの増殖に関する受容体が発現しているか調べる検査が保険適用下で実施できるようになったものもあり、それがあると判断された場合には抗体療法が用いられ、効果を上げている場合も多くあるようです。)

長い時間をかけて読んできましたこの参考書のいよいよ最終項にやってきました、自己免疫疾患の話に続きます。

参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博

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