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副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む③四 インスリンを理解するために その1)

[2023.06.14]

インシュリン物語第四章からの抜粋です。

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哺乳類の最も特徴的な性質の一つは、その細胞の大多数が生活している環境の恒常性である。

ホミオステーシス〜事物を同じに保つこと〜という言葉がこの性質を述べるために用いられていて、細胞をとり巻いている液の化学的・物理的特性はごく狭い範囲内だけで変化していることを意味している。

身体の中では、体温や電解質、つまりナトリウム・カリウム・カルシウム・塩素その他の電気を帯びた粒子の濃度、そしてブドー糖をはじめ多くの化学物質の濃度は身体が全体として日常生活をしている外界の条件が大きく変化するのに比べると、ごく僅かな変化をするにとどまっている。

細胞をとり巻いている液は組織液、あるいはもっと科学的にいえば細胞の間の空間を充たしている意味で組織液と呼ばれている。

クロード・ベルナールの言葉を借りれば、それは体細胞やその他の組織の「内部環境」を構成している。

内部環境の反対は外部環境であり、身体全体としては外部環境の中で生活している。

外部環境は恒常どころのものではない。たとえば気温や湿度は不規則に変わるし、飲食によって大量の有機物、無機物が胃の中に突然入ってきて、その多くは時と共に組織液、いいかえれば内部環境の中に入ってくる。

 大きな外的変動にもかかわらず、内部環境の恒常性を維持するためにはそれを乱そうとする動きを是正する多数の代償機構を必要とする。これらの機構の働きは諸物質の体液への出納を等しくし、内部環境の動的平衡状態を維持することにある。たとえば組織液中のナトリウムの濃度が増す傾向にあると、腎からのナトリウム喪失を促す機構が作動しはじめる。ちょうど席のふさがった映画館のように、出ていく人と入ってくる人の数のバランスがとれていると実際に座っている人の数はかわらない。

これらの機構はもっと複雑なことが多い。血漿中のある物質をつくり出したり取り除いたりする主な器官は分化した高位の調節器官によって活動を調節されていて、一方、この調節器官も、内部環境の小さな変化に敏感に反応する高度に分化した細胞群たる受容器から「情報」を得ている。これら相互間の連絡は神経か「ホルモン」〜つまり高度の分化をとげた細胞群の分泌する科学的「伝達物質」によって維持されている。インシュリンはそのようなホルモンの一つである。

たとえば、非常に寒いところに置かれた身体が熱を失いはじめると仮定してみよう。この際は内部環境恒常性の一つである体温が僅かであっても変化し低下しはじめる。脳の特殊の「体温知覚」細胞がこの非常に小さい変化に反応し、神経系と甲状腺ホルモンおよびいくらかは副腎髄質のホルモンの働きによって熱産生が高まる。同時に、体表面からの熱の喪失は皮膚の血管収縮によって減少される。その結果、内部環境の温度は再び正常温度まで高まってくる。

もう一つの例は血液の中の糖、すなわちブドー糖の比較的一定な濃度の調節である。

食後、特に澱粉質の食事のあとでは、大量のブドー糖が腸から血中に吸収され、血漿と組織液中のブドー糖濃度を少し高める。その結果、体細胞は血液からの糖摂取を増す。インシュリンの分泌が始まり、この糖摂取亢進をさらに高める。血漿のレベルは正常に戻る。

インシュリンの分泌が全然無かったり乏しかったりする糖尿病者の多くでは、インシュリンによる調節が不十分で血糖濃度が正常レベルに戻るのに時間がかかる。

もし何らかの理由で血糖濃度が正常より僅かに低下すると肝に蓄えられていた糖の放出が起こって、血糖レベルを正常に戻す。たとえばインシュリンの分泌が多かったり注射をしすぎたりして血糖濃度低下が著しいと内部環境の糖濃度を十分に維持するために身体はいろんな方法で肝からの糖放出を促進する。

以上のことから明らかなように、内部環境の恒常性は絶えず流れ動いている体液各成分の動的平衡状態を維持するためのごく精密な出納バランスの調節に他ならない。

参考書:インシュリン物語    G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版

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