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副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む⑤四 インスリンを理解するために その3)

[2023.08.14]

インシュリン物語第四章からの抜粋の続きです。(1人で読んでいるとなかなか頭に入らないのですが、このように書き写してみますと、味わい深い表現が多く、面白いです。)

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

化学的に言って、インシュリンは何であるのか?

インシュリンに関する初期の多くの研究によって、それが蛋白質であることが示唆された。

蛋白質は何千という原子からできた大きな分子であることがわかっている。

すべて蛋白質はいかに大きな分子であろうとも、家が煉瓦からできているように、小さい分子が集まって構成されているのである。

この「煉瓦」はすべて「アミノ酸」と呼ばれる同じ化学的家族の出である。

動物界、植物界を問わず、すべての蛋白質は24種類のアミノ酸から成っていて、24種類のアミノ酸の中から選ばれた何百個かのアミノ酸が一つの蛋白質分子の中にとり入れられている。

蛋白質には物理化学的・生物学的性質において互いに相当な違いがあり、その差異は構成分子たるアミノ酸の種類の違いだけでなく、その配列の違いや、またある程度は蛋白質分子中のアミノ酸の総数によっても生じてくる。

どんな種類のアミノ酸が存在してどれだけの数のアミノ酸があるかだけを調べる単なる化学分析は、材料の煉瓦と石としっくいをみてこれからできるはずの家を想像するのに似ている。

アミノ酸の数や種類以上に問題となるのは蛋白質分子内でのアミノ酸相互の配列である。

蛋白質は単なるアミノ酸の鎖ではなく、数珠のようなものである。(ちょうどお盆の時期にblogを書いています!)

24種類のアミノ酸の各々の特殊な化学的特徴によって、アミノ酸の中で分岐することも起こり得る。

かくてアミノ酸の二つ以上の鎖が一つの蛋白分子中に含まれ、二つの鎖は硫黄の分子の橋でつながれる、これがいわゆる「硫黄結合」と呼ばれるものである。

インシュリン分子の中でのアミノ酸の構成と配列はすでにわかっている。

構造が確定された「最初の蛋白質」としてインシュリンはもう一度歴史を作ったのである。

英国ケンブリッジ大学のサンガーは10年間の研究の末、インシュリンの構造式を発表し、数年後の1958年にノーベル化学賞を与えられた。

サンガーは、インシュリン分子は僅か51個のアミノ酸の「煉瓦」からできていて蛋白分子としては小さいものであることを明らかにした。

自然界にあるアミノ酸のうち21種類が含まれていた。

51個のアミノ酸は二つの鎖に分かれていて、一つは30、もう一つは21のアミノ酸分子からなっている。

二つの鎖は二つの硫黄結合の橋でつながれている。

もう一つ硫黄結合があって、これは短い方の鎖の中で迂回回路のようになっている。

蛋白質化学における重要な意義は別としても、サンガーの研究は医学に対しても二つの意味を持っている。

インシュリン分子のどの部分が生物学的活性をになっているのか、

そして、そのような活性のあるインシュリン分子を人工的に作れないものであろうか、という二つの問題への道がサンガーによって開かれたのである。

生物学的見地からすれば、インシュリンの分子全体が細胞内での化学反応に関与してインシュリン作用を発揮するとは考えにくい。

分子の一部だけが反応して、他の部分はこの活性部分を適切な部位に持ってきたり、反応の場の物理化学的条件を維持する、舞台の裏方的な役割を演じていることの方がはるかに可能性が大きい。

インシュリン分子のいろんな部分を変えて、生物学的活性が変わるかどうかを調べた実験はたくさんある。

(ここから次回に続きます。)

参考書:インシュリン物語    G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版

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