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副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む⑥四 インスリンを理解するために その4)

[2023.09.14]

インシュリン物語第四章からの抜粋を続けます。

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サンガーは、インシュリン分子は僅か51個のアミノ酸からできていて蛋白分子としては小さいものであることを明らかにした。

インシュリン分子のどの部分が生物学的活性を担っているのか、そのような活性のあるインシュリン分子を人工的に作れないものか、

インシュリン分子のいろんな部分を変えて、生物学的活性が変わるかどうかを調べた実験はたくさんある。

二つの鎖の間の硫黄結合を壊すと、生物学的活性はなくなる。

長い方の鎖の一端の7つのアミノ酸を取り除いても生物学的活性はなくならない。

また、構成アミノ酸の中には他のアミノ酸と入れ換えても影響がないものもある。

しかし他のアミノ酸と入れ換えると生物学的活性がなくなる部位もある。

インシュリンの化学構造と生物学的活性を相関させるもう一つの方法はいろんな動物の膵臓から得た違うインシュリンを比較するやり方である。

哺乳類のインシュリンはどれも力価が同じであることがわかっている。

これは豚・牛・犬・兎・鯨・人から得た同じ量のインシュリンは実験動物の血糖レベルを同じ程度だけ下げる力があることを意味している。

つまり、分子の生物学的活性を担う部分はどの動物でも同じで、その化学構造の違いは生物学的活性に関係のない部位にあることを示唆している。

その化学構造の違いのほとんどは短い21個のアミノ酸の特徴的な部位にみられる。

差のみられるもう一つの部位は長い鎖の端のアミノ酸である。

したがってこれらの部位は生物学的活性には関与していないと考えられるのである。

インシュリンの分子構造の発見とともに、その化学的生産(合成)も有機化学者の手の届くところに近づいた。

紙の上でアミノ酸をくっつけることよりも実際は至難の業で、まず難しいのは鎖の上にアミノ酸を順番通り並べることである。

例えば、まず二つのアミノ酸PとRの短い鎖に三つ目のアミノ酸Sをくっつけるのはそう難しくはない。

しかしSというアミノ酸はPR鎖の両端にくっついてしまうので、できたのもはSPRSという形になってしまう。

そこでPRSという鎖が欲しいときにはSがPにつかないようにあらかじめPにXという(Sがつかないようにする)阻害分子をくっつけておいてからSを作用させる方法を使う。

つまりXPRとSを反応させてXPRSを作り、あとでXを取り除くとPRSが残るわけである。

鎖が長いほど難しくなる。

アミノ酸をくっつけてA鎖とB鎖を別々に作ったらそれをどうやってくっつけるか。

二つの鎖を反応させるといろんな形にくっつきあうが、そのうち一つの型だけがインシュリンなのである。

カナダのディクスン達は二つの鎖のごく僅かなものだけがインシュリンの形にくっつくに過ぎないことを明らかにした。

そのため合成インシュリンの収量は極めて僅かである。

多大な困難にも関わらず、インシュリンの合成はアメリカのカツォヤニスとドイツのツァーンによって同時に成し遂げられた。

合成インシュリンを臨床的に応用するようになるまでには時間を要しよう。

今後何年もの間は臨床インシュリンは引き続き動物から得られようが、合成インシュリンの持つ科学的意味は大きく重要である。

(当時は家畜や魚、鯨からインシュリンを抽出する時代でその後ブタインシュリンからヒトインシュリンを作り出す時代が続き、遺伝子組み換えヒトインシュリン製剤が登場したのは1980年代となります。1990年代以後は打って短時間で効果がある超速効型や長く働く効果の持続型という、より体内で分泌される形にちかい働きのインスリンアナログが多く用いられるようになっています。)

次回はインシュリンの働きについての話となります。

参考書:インシュリン物語    G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版

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