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副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む⑩四 インスリンを理解するために その8 インシュリンの作用について、前編)

[2024.01.29]

《インシュリン物語読みを続けます、今月は14日どころか月末になってしまいました。》

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インシュリンはどのようにして作用するのか?

インシュリンはホルモンの一つである。ホルモンというのは、直接に血液中に分泌され体内の他の場所で作用する微量物質である。といっても、あるホルモンがただ一つの機能を遂行するわけではなく、一つの組織だけに作用が限られるわけでもない。実際には血液を介して身体全部に分泌され配布される性質のものであるから、一つ以上の場所で作用を営むのに適している。

インシュリンは広く魚類・哺乳類・鳥類にわたる脊椎動物の島組織から抽出される。同様に、ある動物から抽出されたインシュリンは他の種の動物にも特徴的効果がある。抽出インシュリンのアミノ酸組成には種間の小さな差がある。

糖尿病の動物にインシュリンを注射すると食物の代謝に変化が起こるが、どの組織と器官においてその作用は行われるのであろうか?

最も手軽な検査材料は循環血液である。血液は例外的な液状の体組織である。血液は他の液状でない組織と器官とに食物と水と酸素とを供給し、炭酸ガスを含む老廃物を肺や腎臓のような排泄器官まで運び出す。

循環血液の中に含まれている数種の成分はインシュリンの影響を受ける。普通はブドー糖・ある形の脂肪・アミノ酸・カリウム・燐化合物などである。インシュリン注射によって循環血液中のこれらの物質の濃度は速やかに著しく低下する。しかし試験管内で血漿にインシュリンを加えたのでは、どの物質の濃度にも変化は起こらない。したがって、インシュリンが血漿に直接作用するということにはならない。ここに見られる変化は、組織におけるインシュリン作用を反映しているのに違いない。

脳と脊髄の唯一のエネルギー源が、ブドー糖であることは多くの人によって確かめられている。《当時の見解です。》血液中にインシュリンが存在しなくしても、これらの組織のブドー糖の利用には直接の影響はないこともわかっている。インシュリンを過量に注射したあと血糖が正常よりはるかに下がる低血糖についての初期の記載を思い起こすと、以上のことはいささか容認しにくいようであるが、インシュリン痙攣を起こすのは血糖の低濃度による脳への作用であって、インシュリン自体の効果ではない。

したがって、基本となる疑問は、インシュリンを注射したときに血糖を下げるのは、体内のどの組織の働きなのか?ということである。このブドー糖は「ターンオーバー」をしているので、この疑問は実は三つの可能性を提起する。

インシュリンは血糖を作り出している組織の糖生産を少なくするのか、

血糖からブドー糖を取り除く組織の糖取り上げ(取り込み)を多くするのか、

あるいはこの両者を同時に起こすのか。

分子内に放射性同位元素(アイソトープ)をもったブドー糖を用いてある動物で実験してみると、注射したインシュリンは血流からブドー糖が取り除かれる速さを、速やかに著しく高め、血糖は低下し始める。

筋肉組織を血液で灌流してそのブドー糖消費を調べると、インシュリンを加えた血液で灌流したあとでブドー糖消費が急速に高まる。ブドー糖消費のこのような急速な増強は、インシュリン注射後のある主の脂肪組織でも見られる。筋肉や脂肪組織を試験管内で調べても、インシュリンによる同じような作用をみることができる。

肝臓は血液の中に糖を注ぎ入れている主な臓器である。インシュリンのない膵臓摘除した動物の血糖を高める肝臓の働きは、このような動物の肝臓を取り除いてみるとよくわかる。《ごめんなさい!》肝臓を取り除くとインシュリンを加えないのに、それまで高かった血糖は極めて低いレベルまで下がる。ブドー糖を注射してやらないと、その動物は低血糖のために死んでしまう。腎臓もまた、少なくとも兎やラットのような動物では血糖が下がった時、糖を放出する働きに関係しているという。

生体内のその他の組織におけるブドー糖の出納に対するインシュリンの作用についてはまだ確証を得ていない点が多く、さらに研究の余地がある。

生体内での実験と試験管内での実験とは、それぞれ利点と限界がある。体内での糖調節に対するインシュリン効果を調べたいのならば、生体内実験のみが解答を与え得る。一方、身体の特定の細胞に対するインシュリン効果は、その細胞や組織がその他の身体の組織の影響を受けないような試験管内実験のほうが適している。また試験管に入れた細胞を用いると他の体組織がやられてしまうために生体内では実現できないような特殊な実験条件についても研究ができる。

試験管内での実験のためにはさまざまな組織切片が用いられている。たとえば肝の薄い切片や、ラットの横隔膜のような筋肉の小片を用いて細胞をかなりの程度まで無傷にしたものを、体液と同じような栄養液の中で培養する方法もあるし、細胞を擂り混ぜて破壊し、均質化する方法もある。最近は、細胞の中の構造を分けて、一つの構造だけの働きを試験管で調べることことさえ行われている。このような各種の方法を用いて、各種の細胞の、構成分による栄養素の代謝にインシュリンがどのように作用するかを調べる試みが行われつつあり、成果を上げている。

《もう少し読み進めたいけど今回はこの辺で。なお、本書が書かれた時代に行われていた比較的大きな動物を用いての実験は現代では不可能となっています。》

参考書:インシュリン物語    G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版

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