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副院長ブログ(免疫システムを知る⑲多様な抗原認識受容体が作られる仕組み)

[2022.02.28]

リンパ球のT細胞もB細胞も1000億種類以上の抗原認識受容体の形状があり、どのような抗原(T細胞ではMHC分子+抗原ペプチド)に対してもピタッとくっつく受容体がある可能性が高いことを勉強してきました。

抗体は獲得免疫に関与する体液中のタンパク質で、B細胞で作られます。抗体および、B細胞の細胞表面に存在するB細胞受容体は免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質でできています。

ヒトの遺伝子は数万個ほどしかないのに遺伝子の数をはるかに超える1000億以上もの抗体がなぜ存在するか、 について利根川進先生が御研究され1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

「遺伝子の組み換えが起こっていれば、抗体は多様性を獲得できる」「しかし、遺伝子は終生変化しないはず」この相反する考えを、利根川先生は実験で確かめることにされました。

まだ抗体を作っていない遺伝子のサンプルとして、マウスの胎児からとったDNAを、抗体を盛んに作っているサンプルとして、がんにかかったマウスからとったDNAを用意し、それぞれのDNAの抗体遺伝子にあたる部分を比較したところ、遺伝子の様子が全く違っていて、胎児の遺伝子は、まとまりのない小さなかたまりとして配列されているのにに対して、がんのマウスの遺伝子はしっかりと再構成されまとまりのある配列となっていたことがわかりました。これは、胎児期から成長し、がんを患うまでに、抗体遺伝子に組み換えが起こっていることを示しているのではないか、とその実験を別の方法で追試してやはり同じ結果が出たため、抗体の多様性は、やはり遺伝子組み換えによって起こっていたということが示されました。

免疫グロブリンは二本の足を揃えて立って、空に向かって両手を広げたような形の左右の腕の真ん中より先の内側に長いH鎖、外側に短いL鎖があってY字型の構造をしています。このH鎖L鎖の部分で抗原に結合します。

H鎖はV領域、D領域、J領域があり、マウスの場合それぞれおよそ200種、12種、4種の遺伝子断片があり、それぞれの領域から遺伝子が1つずつ選ばれて違う遺伝子が作られるすると単純にかけ合わせて9600通りとなります。L鎖についてはV領域250種J領域4種があり1000通りの組み合わせがあり、9600×1000で960万通りの可能性があります。

遺伝子断片のつなぎ目に塩基が挿入されたり欠失されたりするのでその数万倍の種類になります。

ヒトの場合はさらに多様性が増すため1000億通り以上となることが考えられています。

そのように遺伝子の組み合わせを変えることができるためH鎖L鎖の部分は可変部と呼ばれています。

成熟したB細胞では抗体遺伝子はまとまりのある配列に可変部の遺伝子が組み替えられ、そのDNAの遺伝子情報を必要な部分だけRNAが写し取り、核の外へ飛び出してタンパク質が合成され、免疫グロブリンの可変部に組み込まれ、新しい抗体が作られるという仕組みです。T細胞でも同様の仕組みがあると考えられます。

遺伝子の再構成はランダムに起こるため、病原体以外の異物や自己の成分を認識する受容体をもつB細胞やT細胞も生じます。

ではなぜ自己を攻撃する細胞が増えすぎないのか、については⑯とまた少し違ったアプローチの学習をする予定です。

参考書:新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで 著者:審良静男/黒崎知博

    スクエア最新図説生物 第一学習社

    医療の挑戦者たち19 テルモ株式会社ウェブサイト

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