副院長ブログ(「インシュリン物語」を読む⑦四 インスリンを理解するために その5)
「インシュリン物語」を読んでの学習、今月14日は学会があったのでちょっと遅れました。
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インシュリンは身体の中のどこで、どういう働きをしているのであろうか?
著しく痩せた糖尿病の子供達がインシュリン治療を数週間続けると見違える程たくましくなってくる。
この著しい変化を見たことのある人たちならば、インシュリンの作用と、身体が食物を利用して体組織を作り上げる力との間に密接な連繋があることを疑わないであろう。
インシュリンのこの全身的な作用は臨床の病院でも研究室でも広く認められる。
我々の理解を広くするためには、一体「食物」という言葉の意味するところは何か、身体がそれをどういうふうに利用し、インシュリンが食物のいろんな成分の一部にだけ作用するのか、あるいは全部の成分に作用するのかをまず考えてみなければならない。
人間が生きてゆくためには、食物のエネルギーを得なくてはならない。
食物摂取の種類と量の調節は健康の基本の一つである。
同様に体動によって食物エネルギーの消費の程度を調節することも、身体の中での食物の流れを維持するための基本である。
インシュリンは「あらゆる」型の栄養素の、変化と貯蔵と利用にとって重要である。
これらの過程は総じて「代謝」という言葉で表現される。
エネルギーは仕事をする能力であり、仕事は一つの力がある距離の間作用するときに行われる。
身体は仕事をしていて、そのエネルギーは身体のエネルギー源に由来している。
ある人の身体の持っているエネルギーは限度があるから、体組織を維持するためには、仕事をしたために使われた分のエネルギーを食物から補う。
エネルギーや体内のいろんな物質の、このような不断の消費と補給の動きは「ターンオーバー(turnover)」と呼ばれる。
エネルギーは創造も破壊もされないので、生き物によるエネルギー貯蔵および消費と食物摂取との間にははっきりした関係がある。
一人の人が激しい肉体労働をして1日に使うエネルギーは、じっとしている場合の二倍も三倍も多い。
このエネルギーの消耗をエネルギー摂取と釣り合わせるためには、重労働する人はたらふく食べなくてはならないし、それでも肥ることはない。
言い換えれば、この重労働者はエネルギー「ターンオーバー」に関しては動的平衡状態にある。
しかし、じっとしている人が重労働者と同じだけ食べたら、エネルギーは不滅であるから、消費されない部分は身体に蓄えられる。
この過剰エネルギーは通常は脂肪として蓄えられる。
一方、もし身体の貯蔵機構が食物を処理しきれないと、食物中のエネルギーの一部は尿の中に糖として出る。
これは糖尿病の一つの特徴である。
注射したインシュリンは身体からの食物の喪失を、過体重者においても減らす作用がある。
このことから過剰の食物を貯蔵する仕事はインシュリンを作り出す膵臓の働きと何らかの関係があることがわかる。
世界の科学者たちは食物のエネルギーを「キロカロリー」という言葉で測っている。
これは栄養学では単に「カロリー」とも呼ばれている。
1カロリーとは1キログラムの水(1リットル)を摂氏1度だけ高めるに要するエネルギー量である。
食物を食べた後のエネルギーの運命を考えて科学者達はそれが決して消えてなくなるのではないことに気づいた。
仮に1カロリーのエネルギーを含んだ食物が身体に吸収されると、身体の仕事に使われ、熱になったりして失われた量や身体に残っている量や使われないでそのまま尿に糖として出てしまった量を総計するとどの瞬間にも同じく1カロリーになる。
1日にどのくらいのカロリーが適当な体重を保つために必要なのであろうか?
成長期の人や重労働者はいずれも成人後や重労働しない人よりも余計にカロリーが必要になる。
成人では大柄な人は小柄な人よりもエネルギーを余計に必要とする。
日々のエネルギー消耗を補給するに必要なエネルギーは糖質・蛋白質・脂肪の三大栄養素の一つ以上から得られている。
糖尿病者の食物は同じ性・年齢・体格の糖尿病ではない人が同じ体重を維持するために要するだけのカロリーは含んでいなければならない。
しかし、糖尿病者の食事中の糖と脂肪と蛋白の間のカロリーの配分は医師の指導に応じて非糖尿病者とはいくらか違う場合もある。
インシュリン注射をしている場合には1日のカロリーを朝昼夕とどのように配分するかも考慮されねばならない。
(長くなるので次回に続きます)
参考書:インシュリン物語 G.レンシャル・G.ヘテニー・W.フィーズビー著 二宮陸雄訳 岩波書店 1965年発行 1978年第12刷版